「5段、持ってきて」
初日にこう言われて、バックヤードで手が止まった人は少なくありません。カートが並んでいるのは見える。でも、どれが「5段」なのか。8段と何が違うのか。聞き返せないまま、近くにあった背の高いほうを押して売場に出てしまう。
その1台の選び間違いが、売場でお客様にぶつかる事故の入口です。このページでは、5段カートと8段カートの使い分けを、現場で実際に使っていた立場から書きます。
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現場での呼び名と、カタログでの名前
現場ではほぼ例外なく「5段」「8段」と段数だけで呼びます。カートという言葉すら付けません。
ところが通販サイトやメーカーのカタログでは、「パックカート」「トレイカート」「ラックカート」「多段カート」と呼び名がばらばらです。大一産業の「シプラックカート」のように、商品名がそのまま店の呼び名になっている職場もあります。段数も5段と8段だけではなく、4段や10段もあります。
名前がどれだけ違っても、トレイや番重を段ごとに差し込んで運ぶ・置いておく台車という正体は同じです。
どこで、いつ使うか
5段は、売場へ商品を運ぶためのカートです。加工場でパックした商品を載せ、陳列する売場まで運びます。精肉・鮮魚・惣菜なら、毎日何往復もするのがこの5段です。
バックヤードで仕上がった商品を載せて、そのまま品出しに使う。この使い方があるので、5段・8段カートはスーパーのカート類でいちばん使う頻度が高い台車です。惣菜、精肉、鮮魚。生鮮の売場で、このカートを押さない日はありません。
8段は、厨房やバックヤードで商品をストックしておくためのカートです。値付けを待つ商品を並べておく、冷蔵庫の中で商品を仕分けておく。段数が多いぶん、1台にまとめておける量が多いのが強みです。
例外があります。紋日や催事です。お盆、年末年始、クリスマスのように商品量が一気に増える日は、5段だけでは追いつかず、8段も売場に出ていきます。新人が8段を押して売場を歩くのは、たいていこの日です。
5段と8段の使い分け
| 5段カート | 8段カート | |
|---|---|---|
| 主な場所 | 売場 | 厨房・バックヤード |
| 主な役目 | 陳列する商品を売場へ運ぶ | 商品のストック・仕分け |
| 売場に出る日 | 毎日 | 紋日・催事など、商品が多い日だけ |
| 押したときの見通し | カートの向こうが見える | 背が高く、向こう側が見えない |
| いちばん気をつける相手 | 通路の什器や商品 | お客様、とくに背の低い子ども |
表の下2行が、この記事でいちばん伝えたいところです。
8段は背が高い。押して歩くと、カートの向こう側がほとんど見えません。バックヤードなら、すれ違うのは状況を知っている従業員です。売場は違います。お客様は商品を見ながら歩いていて、カートの存在に気づいていません。背の低い子どもは、8段の向こうに完全に隠れます。
紋日に8段を売場へ出すのは、現場の判断として間違いではありません。ただし出すなら、普段の5段とは別物の道具を動かしているつもりで扱ってください。
オープン後の品出しは、カートの置き方で決まる
開店前の品出しなら、売場にいるのは従業員だけです。オープン後は違います。補充のためにカートをショーケースや平台の前まで持っていくと、すぐ横でお客様が商品を選んでいます。
ここで気をつけるのがカートの置き方です。ショーケースの正面にカートを横付けすれば、その前に立って商品を選びたいお客様が近寄れません。通路の真ん中に止めれば、ショッピングカートを押したお客様が通れなくなります。
カートは、お客様が商品を選ぶ場所と、通る場所の両方を空けた位置に止めます。通路の片側に寄せ、ショーケースの正面をふさがない。補充する商品だけを手に取って、棚へ運びます。
いちばん起きやすいのは、品出しに集中しすぎて、周りが見えなくなることです。早く並べ終えようと手元だけを見ていると、カートの向こうでお客様が立ち止まって待っていても気づきません。品出しをしながら、自分のカートが邪魔になっていないか、ときどき顔を上げて周囲を見る。お客様が近づいてきたら、手を止めてカートを寄せる。オープン後の品出しは、並べる速さより、この気配りのほうが売場の評価を決めます。
新人がやりがちな失敗
- 押して運ぶ/基本は引きます。押すと前が見えず、通路の角でお客様にぶつかります。8段なら、なおさらです。
- 上の段に重いもの・汁の出るものを載せる/重心が上がって傾きやすくなるうえ、下の段の商品に汁が垂れて汚れます。重いものは下へ。
- ショーケースの正面や通路の真ん中にカートを止める/お客様が商品を選べず、通ることもできません。止めるのは通路の片側です。
- 売場に置きっぱなしにする/通路をふさぐだけでなく、お客様がカートの商品を売り物だと思って手に取ります。
- 1段に入りきらない商品を重ねて載せる/次の項目で、実際に見た例を書きます。
実際に見た失敗:パックを二段重ねにして、滑り落とした
5段カートしか空いていない。運びたいパック商品は多い。そこで1段にパックを二段重ねて載せる。新人がよくやる失敗です。
落ちます。
パックの上面はフタやフィルムで、平らに見えても面で支え合っていません。形によっては、重ねた瞬間は安定して見えても、曲がり角や床の段差でずれ始めます。一度滑り出したら、押している側からは止められません。
段と段のすき間は、1段に1枚分を置く前提で作られています。重ねたくなるほど量があるなら、それは8段を使う場面か、カートの台数そのものが足りていないということです。台数が足りない現場で人が取る行動は、いつも同じ。詰め込みます。
選ぶときの基準
買い足すときは、値段より先に次の4つを見てください。
- 今使っているトレイ・番重の寸法に、棚が合うか/合わないと、カートごとに載せ替えが発生します。
- 売場用か、バックヤード用か/売場に出す前提なら5段。8段だけで揃えると、日常の品出しで毎回見通しの悪いカートを押すことになります。
- キャスターが店の床に合うか/目地や段差の多い床では、小さいキャスターほど引っかかります。
- 丸洗いできるか/生鮮や惣菜で使う以上、洗えないカートは結局使われなくなります。
売場へ出す5段タイプの例です。法人・事業所限定の販売なので、個人ではなく店の購買担当から手配する商品です。
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5段か8段か。迷ったときは「このカートで売場を歩くかどうか」で決めてください。歩くなら5段です。
